結論から言います。おやつを取り上げないでください。いつものおやつと、食べてほしいごはんを、別々の器に並べて同時に出すところから始めます。混ぜません。ただし、食べる量が減った状態が3日以上続くとき、まったく食べない状態が2日を超えるときは、先に動物病院へ相談してください。
この記事を検索している方の多くは、すでに何度も試して失敗しています。ごはんに少しずつ混ぜてみた。器を変えてみた。心を鬼にして半日おやつを抜いてみた。それでも食べず、結局おやつを出してしまった。そういう経験を何回か重ねた後で、この記事にたどり着いていると思います。
そして多くの方が、自分を責めています。甘やかしたせいだ、と。その前提は、いったん置いてください。猫が特定の食べ物に固執する仕組みは、行動学と生理学の言葉で説明できます。あなたの性格の問題ではありません。
この記事は、国際猫医学会(International Cat Care / ISFM)、世界小動物獣医師会(WSAVA)、コーネル大学猫健康センター、VCA Animal Hospitals、および査読つき論文をもとに書いています。数字を書く行には、すべて出典へのリンクを付けました。理由は後で述べますが、このテーマは出所の分からない数字が非常に多く流通している領域だからです。
なお、この記事は病気の診断や治療について述べるものではありません。受診するかどうかの判断は、動物病院の領域です。ここで扱うのは、そこに至るまでの目安と、家でできる出し方の設計だけです。
結論:おやつを取り上げない。別々の器に「並べて出す」から始める
いちばん伝えたいことを先に置きます。おやつをゼロにする作戦は取りません。おやつは残したまま、その隣にごはんの器を並べます。
国際猫医学会は、フードを切り替えるときの手順として、こう書いています。まず両方の食事を同時に、ただし別々の器で出すこと。理由は、猫は一般に、2つの異なる食べ物が1つの器で混ざっているのを好まないからです。そして古い食事75%、新しい食事25%の比率から始める、と続きます(International Cat Care「How to change your cat's food to a new diet」)。
日本語で読める切り替えの手順は、ほとんどが「少しずつ混ぜる」です。一次資料はその逆を、理由つきで書いています。しかも、おやつに固執している猫はまさに「混ぜられると両方に口をつけない」典型です。混ぜた結果おやつまで食べなくなった経験がある方は、方法が合っていなかっただけかもしれません。
今日からできる3つのこと
順番も含めて、次の3つです。
- 器を2つ用意して、並べて同時に出す。片方にいつものおやつ、もう片方に食べてほしいごはん。混ぜません。量は、いつものおやつを4分の3、ごはんを4分の1くらいから
- おやつを出す時間を決める。鳴かれたから出す、という出し方をやめて、こちらが決めた時間に出す形へ移します。理由は後述します
- 記録をつける。日付、出したもの、食べた量、おやつを出した回数。この4つだけで構いません。1週間分あれば、動物病院で見せられる情報になります
この3つに、猫を空腹にさせる工程は入っていません。意図的にそうしています。理由はこの後の章で、出典とあわせて説明します。
その前に:先に動物病院へ相談したほうがいいサイン
手順より優先されるものがあります。次のいずれかに当てはまるなら、並べて出す前に動物病院へ連絡してください。
- 食べる量がいつもより減った状態が、3日以上続いている。国際猫医学会は、この場合は緊急に動物病院へ連絡するよう書いています(International Cat Care「How to encourage your cat to eat」)
- まったく食べない状態が、2日を超えている。VCA Animal Hospitals は、この場合は直ちに獣医師に相談するよう書いています(VCA Animal Hospitals「Anorexia in Cats」)
- 体重が減った。背骨や腰の骨が以前より触れるようになった
- 口臭がする。よだれが出る。食べ物を口からこぼす。片側だけで噛んでいる。食べた後に前足で口を気にする
- ぐったりしている。隠れて出てこない。水を飲む量が急に増えた。吐く。下痢をしている
この数字は相談の目安であって、安全の保証ではありません。「2日までは様子を見ていい」という意味ではないことを、はっきり書いておきます。迷ったら、これより早く相談して構いません。
この記事がやらないこと
先に線を引いておきます。
この記事は病気の診断をしません。症状の一覧は載せますが、それは「当てはまるかどうかを自分で判断するため」ではなく、見たままを動物病院に伝えるためのものです。
また、無理に食べさせる方法(強制給餌)の手順は書きません。やらないほうがいい理由だけを、出典つきで書きます。栄養を入れる必要がある状態かどうかは、獣医師が方法まで含めて判断する領域です。
そして、この記事の結論は「うちの商品に替えれば食べます」ではありません。そう書けない理由も、最後に開示します。
なぜ「おやつだけ」になるのか — 好みが決まる時期と、固執が起きる仕組み
まず、いま起きていることの仕組みを見ます。ここが分かると、後の手順が「なぜそうするのか」で理解できます。
猫の食の好みは、幼いうちに決まる
2022年のISFM合意ガイドラインは、はっきり書いています。猫の食の好みは、非常に早い時期に決まる(feline food preferences are set at an early age)と。そして、そこから外れた味や食感を出されると、食欲不振や食物への嫌悪につながりうる、と続けています(2022 ISFM Consensus Guidelines on Management of the Inappetent Hospitalised Cat, JFMS 2022)。
国際猫医学会も同じことを書いています。猫の好みは幼少期の食体験に左右され、特定の風味や食感に強く固定されうる(can be very fixed to certain flavours or textures)、と(International Cat Care「Feeding your cat or kitten」)。
これは、大人になってから直せないという意味ではありません。ただし、時間はかかります。数日で結果が出ないことを「失敗」と受け取らないために、この前提を先に置いておきます。
ネオフォビア(新しいものへの警戒)と、ひとつのフードへの固執
猫には、見慣れないものを口にしたがらない性質があります。ネオフォビア(新奇恐怖)と呼ばれます。
2020年の総説は、この性質と固執の関係をこう書いています。猫は新しい食べ物に対してネオフォビアを示すことがあり、とくにその食べ物を好ましく感じない場合に強く出る。そしてその結果、ひとつのタイプの食べ物への固執が生まれることがある(may instead develop a fixation on one type of food)、と(Feeding Cats for Optimal Mental and Behavioral Well-Being, Vet Clin North Am 2020)。
同じ資料は、そうした猫の行動も具体的に書いています。新しいものを匂いだけ嗅いで、口をつけずに去る。あるいは試すこと自体を拒む。心当たりのある光景だと思います。
ここで大事なのは、これが警戒であって、抗議ではないということです。猫は飼い主に不満を伝えるために食べないのではありません。知らないものを口に入れない、という生き延びるための仕組みが働いています。
「鳴く→もらえる」がくり返されると、行動は強くなる
もうひとつ、家の中で起きていることがあります。
2020年の総説によれば、猫は給餌の時間が近づくと、うろうろ歩く、鳴く、喉を鳴らすといった行動を見せます。これらの行動が食べ物の登場と結びつくと、その行動は強化されます(they may be reinforced)。そして飼い主は、猫の要求の激しさに敏感です。このやりとりを空腹だと受け取って、もっと食べ物を与えてしまうことがある(may misinterpret these social interactions as hunger, and give the cat more food)、と書かれています(Vet Clin North Am 2020)。
これは、あなたの落ち度を指摘する記述ではありません。猫の学習の仕組みとして、そうなるということです。鳴かれれば気になる。気になれば出す。出せば鳴く回数が増える。この輪は、誰の家でも同じように回ります。
同じ資料は、輪の外し方も書いています。猫が求めたときだけ与えるのをやめ、決まった時間に出す形へ移すと、ねだる行動は減るとされています。ただし、決まった時間の直前にはそわそわが強く出る、とも書かれています。
やめた直後にもっと鳴くのは、失敗ではありません
ここが、この記事でいちばん先に知っておいてほしい部分です。
2020年の総説には、こう書かれています。要求鳴きが強化されてきた猫は、飼い主が求めに応じた給餌をやめたとき、一時的に行動が激しくなることがある。これを消去バースト(extinction burst)と呼びます(Vet Clin North Am 2020)。
つまり、やり方を変えた直後に前より鳴くのは、想定内の反応です。「余計にひどくなった、この方法は間違いだった」と受け取って元に戻すと、いちばん激しく鳴いたときに報酬が出たことになります。輪はむしろ強くなります。
同じ資料は、この山を小さくする方法にも触れています。ねだる以外の行動に報酬を出すやり方(differential reinforcement of alternative behaviors)です。静かに座って待っているとき、落ち着いて自分の場所にいるとき。そのタイミングでおやつを出します。
日本語で読める記事で、この現象に触れているものは、調べた範囲で見当たりませんでした。知らずに始めると、ほぼ確実に3日目でくじけます。先に知っておいてください。
なお、ここまでの話は「行動の問題である場合」に限った説明です。食欲の低下そのものは、行動の問題として片づけてはいけません。2020年の総説は、食欲の低下がさまざまな病的な過程によって起こりうると述べています。そのうえで、健康上の問題が対処されるか除外されるまでは、好みに関連した正常な行動とみなすべきではないと明記しています(Vet Clin North Am 2020)。この点は後の章で改めて扱います。
おやつが選ばれる理由は、香り・食感・水分・温度の4つ
次は、なぜおやつのほうが選ばれるのかです。「味が濃いから」で終わらせると、家でできる打ち手が見えません。一次資料は、もう少し分解して書いています。
国際猫医学会は、猫が食べ物をおいしいと感じるかを左右する要素として、食感・におい・味・温度(texture, smell, taste and temperature)の4つを挙げています(International Cat Care「Feeding your cat or kitten」)。
この4つのうち、ペースト状や液状のおやつは、少なくとも3つで有利な形をしています。香りが立ちやすく、水分が多く、なめらかな食感を持っています。猫が特別に意地悪なのではなく、そういう設計の食べ物です。
猫は舌より先に、鼻で決めている
国際猫医学会は、食べ物のにおいがとくに重要であると書いています。猫はきわめてよく発達した嗅覚を持つ、とも(International Cat Care)。
2020年の総説には、ネオフォビアを示す猫の行動として「口をつける前に、まずにおいを嗅ぐ」という記述があります(Vet Clin North Am 2020)。味を確かめる前の段階で、すでに判定が終わっていることがあるわけです。
2024年の嗜好性研究の総説も、ペットフードの嗜好性を「味・食感・においに依存する、食べ物に対する主観的な好み」と定義しています(Measuring palatability of pet food products, J Food Sci 2024)。においは3要素のひとつとして、正面から扱われています。
猫の嗅覚と食べ物の選び方については、別の記事で詳しく扱っています(猫の嗅覚と「おいしい」の科学)。
猫は甘味を感じない。効いているのは、うま味と香り
「おやつは甘いから食べるのでは」と考える方がいます。猫は甘味を感じません。これは推測ではなく、遺伝子の解析で確かめられています。
哺乳類の甘味受容体は、T1R2とT1R3という2つのタンパク質が組み合わさって働きます。ところが猫では、T1R2をつくる遺伝子(Tas1r2)に247塩基対の欠失があり、途中で読み取りが止まっています。結果として、この遺伝子はタンパク質を作らない偽遺伝子になっています。甘味受容体の組み合わせが作れないため、猫は甘味の刺激を受け取る受容体を持ちません(Pseudogenization of a sweet-receptor gene accounts for cats indifference toward sugar, PLoS Genet 2005)。
では何に反応しているのか。2024年の総説は、猫は肉に含まれる成分と結びついた「うま味」を好むと書いています。特定のアミノ酸への強い好みも報告されています(J Food Sci 2024)。
これは実務的な意味を持ちます。甘くすれば食べる、という方向の工夫は、猫には成立しません。打ち手として残るのは、香りの立て方、食感、水分、温度のほうです。
体温付近まで温めると、香りが立つ
4つの要素のうち、今日すぐ試せて、道具も要らないのが温度です。しかも3つの資料が、同じ方向を向いています。
- 国際猫医学会:食べ物を少し温めると香りが強まるため、猫は体温付近(約35℃)の食べ物を好む傾向がある(International Cat Care)
- 2024年の総説が紹介する試験:7歳以上の猫に、同じ食べ物を6℃・21℃・37℃で出したところ、最も温かい37℃が最も好まれた(J Food Sci 2024)
- VCA Animal Hospitals:食欲が落ちた猫への工夫として、体温程度(約38℃)まで温めることを挙げている(VCA Animal Hospitals)
冷蔵庫から出したままのウェットフードは、香りがほとんど立ちません。人肌よりわずかに温かい程度が目安になります。熱くしないでください。
ひとつ注意があります。猫が吐き気を感じているときは、温めないでください。国際猫医学会は、強いにおいがかえって吐き気を強めることがあるとして、その場合は室温か、少し冷ました状態で出すよう書いています(International Cat Care)。
香りは「何を足すか」だけでなく、「何を足さないか」でも変わる
ここから1段落だけ、私たちが作っているものの話をします。効果の話ではなく、製法の話です。
ニコルスは、三重県熊野灘で獲れた季節のお魚を、水を加えずに調理しています(無加水調理)。魚自身が持っている水分だけで加熱します。だしを足して量を増やす作り方ではないため、素材の香りが水で薄まりません。また、保存料・着色料・香料・増粘剤を使っていません。香りは、後から足したものではなく、魚そのものから出ているものです(無加水調理のキャットフードについて)。
これを「だから食べます」とは書きません。猫が何を選ぶかは、この記事が最初から書いているとおり、その子の過去の食体験に強く縛られています。ここで言えるのは、香りという要素に対して、作り手側には「足す」以外の設計もある、ということまでです。
「おやつは1日の何%まで」——実は、数字が割れている
ここは、この記事でいちばん書きにくく、いちばん書く価値がある章です。
おやつの適量を調べると、割合の数字が出てきます。ところがその数字は情報源によって食い違い、しかもほとんどの記事が出典を示していません。まず、根拠をたどれるものから並べます。
国際的なガイドラインは「10%まで」で揃っている
原典を確認できた3つは、いずれも10%前後です。
- 世界小動物獣医師会(WSAVA):栄養評価ガイドラインのスクリーニング用リスク因子の表に、「間食・おやつ・食卓の食べ物が総カロリーの10%超」という項目があります(WSAVA Nutritional Assessment Guidelines, JSAP 2011/WSAVA Global Nutrition Guidelines)
- 国際猫医学会:おやつにあたる補助的な食べ物は栄養的に不完全であり、食事全体の10%を超えるべきではない(should form no more than 10% of your cat's diet)(International Cat Care「Should I feed my cat wet or dry food」)
- コーネル大学猫健康センター:おやつは1日の総カロリー摂取量の10〜15%を超えないようにするのが目安(Cornell Feline Health Center「Feeding Your Cat」)
ここでWSAVAの位置づけを正確に書いておきます。この表は「10%を超えたら病気だ」という表ではありません。問診の段階で当てはまる項目があれば、より詳しい栄養評価に進むべき、というリスク因子のチェックリストです。超えているから即座に危険、という読み方はしないでください。
日本語の情報では、これより高い割合を挙げる記述も見かける
ここが本題です。
日本語で書かれた情報の中には、国際的な一次資料の目安より高い割合を上限として挙げているものが複数あります。その数字そのものは、ここでは書きません。根拠をたどれなかったからです。
調べた範囲で、割合の数字に出典を添えていた記事はごくわずかでした。そのわずかな1本が根拠として挙げていたのは、環境省が公開しているパンフレットです。ところが実際に確認すると、示された表題の資料は当該ページに見当たりませんでした。近い内容の資料(環境省「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」)は公開されています。ただし本文PDFが画像として保存されているため、記述を機械的に確認できませんでした。
日本の制度側も確認しました。ペットフードの表示に関する公正競争規約には、間食の給与量についての数値の定めがありません(ペットフード公正取引協議会「必要な表示項目」)。規約が書いているのは、後述するとおり役割の定義までです。
これは、どこかの記事が間違っている、という話ではありません。確認できたことと、確認できなかったことを、そのまま書いています。読者にできることは、数字を見たときに「誰がどこで言っているか」まで一緒に受け取ることです。この記事が数字の行すべてにリンクを付けているのは、そのためです。
日本の制度は「間食」を、量ではなく役割で定義している
日本の公正競争規約は、ペットフードを目的別に分類しています。関係する3つを引きます(ペットフード公正取引協議会)。
| 分類 | 規約が書いている内容 |
|---|---|
| 総合栄養食 | 犬や猫が必要とする栄養基準を満たした、「毎日の主要な食事」として与えるためのフード。新鮮な水と一緒に与えるだけで、それぞれの成長段階における健康を維持することができるように調製されている |
| 間食 | 犬や猫のおやつ、しつけのごほうびなどとして与えられるペットフード。限られた量を時を選ばず与えられる。おやつ、スナックなどと表示されることもある |
| その他の目的食 | 特定の栄養を調整する、カロリーを補給する、あるいは嗜好増進などを目的としたもの。総合栄養食ではないため、これを補うために与えなければならない食事の内容や量などを明記しなくてはならない |
読み取れることが2つあります。
1つめ。間食の定義に書かれているのは「限られた量」という言い方までで、割合の数値はありません。制度は量ではなく、役割で線を引いています。
2つめ。おやつだけで暮らすことは、そもそも設計されていません。「毎日の主要な食事」として調製されているのは総合栄養食のほうです。おやつが悪いのではなく、おやつは主食の役をするようには作られていないということです。
国際猫医学会も同じ趣旨を書いています。おやつにあたる補助的な食べ物は栄養的に不完全である、と(International Cat Care)。
目分量では管理できない、という調査結果
割合の話には、続きがあります。そもそも、おやつの量は把握しにくいという調査があります。
2024年に発表された飼い主調査(主にカナダ・米国、猫の主たる世話をしている人 n=337)では、次の結果が出ています(Cat caregivers perceptions, motivations, and behaviours for feeding treats, PLoS One 2024)。
- 66%(224/337)が「おやつの量を管理している」と回答した
- しかし、量の測り方として最も多かったのは目分量で41%(139/337)だった
- おやつの位置づけの認識は割れていた。「普段の食事の一部」が42%(140/337)、「食事への追加」が30%(102/337)、「おやつによって違う」が28%(93/337)
同じ論文は、WSAVAの10%を基準として引きながら、多くの飼い主が推奨より多い割合のおやつを与えている可能性があると述べています。
ここから引き出せる実務は、割合の計算ではありません。「今日おやつを何回出したか」を書き出すことです。1週間で構いません。多くの場合、思っていた回数と実際の回数はずれます。そして、そのメモは動物病院で見せられる情報になります。
ごはんに戻す手順:混ぜない。別々の器に、並べて出す
ここが実用の中心です。手順そのものは、国際猫医学会の記事1本にまとまっています(International Cat Care「How to change your cat's food to a new diet」)。順に見ていきます。
なお、この手順を始める前提が1つあります。猫の体調が良いときに始めてください。体調が悪いときに新しいものを出すことの危険は、後の章で扱います。
なぜ、1つの器で混ぜないのか
原文はこうです。「両方の食事を同時に、ただし別々の器で出すことから始めてください。猫は一般に、2つの異なる食べ物が1つの器で混ざっているのを好まないからです」(Start by offering both diets at the same time but in separate food bowls, as cats generally don't like having two different foods mixed in one bowl)。
別の記事にも、同じことが書かれています。「新しいフードを、古いフードの隣に別の器で出す。異なる種類の食べ物が混ぜられているのを好まない猫がいるためです」(International Cat Care「Inappetence in cats」)。
ここが、日本語で読める手順の多くとまっすぐ食い違う部分です。この記事は、どちらが正しいかを断定しません。書けるのは、一次資料がこう述べている、ということまでです。
ただ、実感として思い当たる方は多いはずです。ごはんにおやつを混ぜたら、おやつのほうまで食べなくなった。あるいは、おやつの部分だけをきれいに舐め取って、残りを残した。混ぜるという方法は、うまくいかなかったときにおやつという最後の砦まで失う危険があります。並べる方法には、その危険がありません。
古いもの75%・新しいもの25%から始める
比率も原文に書かれています。「古い食事75%、新しい食事25%を出すところから始めてください」(Begin by offering 75% of their old diet, with 25% of their new diet)。
おやつに固執している猫の場合、この「古い食事」がおやつにあたります。具体的には、こうなります。
- 器を2つ用意する。同じ形の器を2つ並べるのが分かりやすい
- 片方に、いつものおやつ。ただしこれまで出していた量の4分の3にする
- もう片方に、食べてほしいごはん。量はこれまでのおやつの4分の1にあたる程度から
- 同時に出す。順番をつけない。ごはんを先に出して待たせる、という形にはしない
そして、猫が新しいほうを問題なく食べるようなら、新しいほうの量を増やし、古いほうを減らしていきます。最終的に新しいほうだけになるまで、それを続けます。
逆に、猫が受け入れにくそうにしている場合は、新しいほうの量を、ごくゆっくりとだけ増やします。原文も more reluctant な猫について、only very slowly という言い方をしています。
5〜7日で進む猫と、2〜8週間かかる猫がいる
期間について、一次資料はこう書いています。
Allow the cat to set the pace. Some cats may accept a new diet over 5-7 days, whilst others may take a little longer and could take 2-8 weeks.
(猫にペースを決めさせてください。5〜7日で新しい食事を受け入れる猫もいれば、もう少し時間がかかり、2〜8週間を要する猫もいます)
この幅が、この記事でいちばん読者を助ける部分だと思っています。
日本語で読める切り替えの手順は、多くが単一の日数を言い切っています。1週間、あるいは10日。ところが、その日数の根拠を示している記事は、調べた範囲で見つかりませんでした。そして「2〜8週間かかる猫がいる」に触れているものも、見つかりませんでした。
これが何を意味するか。1週間で進まなかった飼い主は、失敗したと思ってしまいます。実際には、2〜8週間の側にいる猫だっただけかもしれません。おやつに強く固執している猫は、まさにその側にいる可能性が高い群です。
急な切り替えを避ける理由も、同じ資料に書かれています。嘔吐や下痢といった胃腸の不調を防ぐためです(to help prevent gastrointestinal upset, such as vomiting and/or diarrhoea)。ゆっくり進めることには、ちゃんと目的があります。
進まないときは、遊びのあとの「ごほうび」として出す
受け入れにくい猫への具体策も、同じ資料が書いています。
Eg, try feeding some of the new food as a treat following a playtime session.
(例えば、遊びの時間のあとに、新しい食べ物をごほうびとして少し与えてみてください)
この一文は、この記事の主張と完全に噛み合っています。おやつという枠を捨てずに、その枠の中身を入れ替えるということです。「ごはんの時間」として出すと食べないものが、「遊んだあとのごほうび」として出すと口をつけることがあります。
2020年の総説も、近い書き方をしています。飼い主は、すでに受け入れられているフードの隣に、新しいフードを選択肢として置くことで、好き嫌いが強くなるのを防げる(Owners can prevent pickiness by offering new foods as choices, alongside previously accepted foods)(Vet Clin North Am 2020)。
押しつけるのではなく、選ばせる。この形は、別々の器に並べるという手順とも、遊びのあとに出すという工夫とも、同じ考え方の上にあります。
記録のつけ方
先に、書いてはいけないことを書きます。「新しいフードは何回出せば受け入れられるか」という数字は、存在しません。一次資料にも、日本語の記事にも見つかりませんでした。
だから、回数を数えないでください。数えるのは経過です。次の4つで足ります。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 日付 | 9/1(並べ始めて3日目) |
| 出したもの | おやつの器/ごはんの器(それぞれ何を、どのくらい) |
| 食べた量 | ごはんは残した/少し舐めた/半分食べた |
| おやつの回数 | 3回(うち1回は遊びのあと) |
これを続けると、2つのことが分かります。1つは、ごく小さな前進が見えるようになること。「今日は匂いを嗅いだ」も記録に残れば前進です。もう1つは、止まっているのか、遅いだけなのかが区別できることです。
そして、この記録は動物病院でそのまま役に立ちます。いつから、どのくらい減ったのか。獣医師がいちばん知りたい情報が、そこに書いてあります。
食べ始めてもらうための、具体的な出し方
手順が決まったら、次は出し方です。ここは細かい話が続きますが、どれも今日から変えられるものだけを選びました。
器:広く浅い、陶器かガラス
国際猫医学会は、器についてこう書いています。猫は広く浅い器や受け皿から食べることを好む。食べながら周りを見渡せること、そしてヒゲが器の縁に当たらないことが理由として挙げられています。素材については、プラスチックよりもガラスか陶器のほうがよい、プラスチックはにおいを拾うため、と書かれています(International Cat Care)。
ここで、よく見かける言い方に一言添えます。「ヒゲが当たるとストレスになる」という症候群があると断定はできません。資料が書いているのは、広く浅い器が好まれるという傾向までです。いくつか試して、その子が選ぶほうを見てください。それが確実です。
置き場所:トイレと水から離し、静かなところに
置き場所には、はっきりした指針があります。
- トイレと水飲み場から離す。ごはんの器・水の器・トイレを、同じ場所にまとめない
- 人の出入りが多い場所を避ける。玄関、キッチンの動線、洗濯機のそばなど
- 多頭飼育なら、1頭につき2〜3か所の給餌・給水の場所を用意し、別々のエリアに置く。国際猫医学会は、猫は一般に、器を共有することや、食べている姿を他の猫に見られることを好まないと書いています(International Cat Care)
猫はもともと単独で狩りをする動物です。獲物を分け合う設計になっていません。多頭飼育で1頭だけ食べが悪いとき、原因が器の位置にあることは珍しくありません。器の数と置き場所を見直すだけで変わることがあります。
回数:1日の量を、5回以上に分ける
1回にたくさん出して残される、という形になっているなら、回数を増やしてください。
国際猫医学会は、可能であれば少量を何度も与えるのがよいとして、1日分を少なくとも5つに分け、24時間を通して与えることを勧めています(International Cat Care)。
この形には、生き方の裏づけがあります。2020年の総説は、家猫とその祖先が最もよく食べていた獲物はネズミであり(1匹あたり約30kcal)、この系統の猫は1日に何度も小さな食事をとる形で進化したと考えられると述べています(Vet Clin North Am 2020)。
回数を増やすことには、もうひとつ利点があります。1回あたりの量が減るので、残されたときの痛手が小さいことです。
温度と、食べ残しの扱い
温度は前の章のとおり、体温の少し手前までです。熱くしないこと、吐き気があるときは温めないこと。この2つを守ってください。
そして、置きっぱなしにしないでください。国際猫医学会は高齢猫向けの記事で、「食べ残したウェットフードを1時間以上出しっぱなしにしない」と明記しています(International Cat Care「Special considerations for senior cats」)。乾いた表面からは香りが立ちません。4つの要素のうち2つが同時に落ちます。
もう1つ、同じ記事に重要な注意があります。「一度にいろいろな種類を出さないでください。猫が圧倒されてしまうことがあります」(don't be tempted to offer a range of foods at once as this can be overwhelming for your cat)。
食べてほしい一心で、皿を3つも4つも並べたくなります。並べるのは2つまでにしてください。この記事の手順が「おやつの器」と「ごはんの器」の2つだけなのは、そのためです。
なお、これまで問題なく食べていた猫が急にウェットフードを食べなくなった、という場合は、原因の見立ても対処も別になります。そちらは別の記事で扱っています(猫がウェットフードを食べないとき)。この記事が扱っているのは、落ち着いて暮らしている猫が、時間をかけておやつに固執した状態です。
やってはいけない4つのこと
よかれと思ってやることの中に、事態を長引かせるものがあります。4つ挙げます。いずれも、一次資料がはっきり避けるよう書いているものだけです。
無理に食べさせない
スプーンや注射器で口に押し込む方法を、動物病院の指示がない限り行わないでください。この記事では、やり方も書きません。
VCA Animal Hospitals は、食べない猫に対して無理に食べさせることは逆効果である(force-feeding is counterproductive)と書いています。理由は2つです。ひとつは、食べ物が気管に入り、誤嚥性肺炎を起こす危険が大きく高まること。もうひとつは、食べ物への嫌悪を強め、猫が自分から食べ始めるまでの時間をかえって長引かせることです(VCA Animal Hospitals「Anorexia in Cats」)。
2022年のISFM合意ガイドラインも、入院中の猫に対する強制的な給餌を避けるべきものとして扱っています(JFMS 2022)。
栄養を入れる必要がある状態かどうかは、獣医師が判断します。必要なら、方法も含めて医療の側から提示されます。家庭で始めるものではありません。
体調が悪いときに、新しいごはんを出さない
これは、この記事の手順そのものに関わる注意です。
猫は、気分が悪いとき——吐き気、痛み、脱水などがあるとき——に出された食べ物のにおいや味を、その不快感と結びつけて覚えることがあります。これを学習性の食物嫌悪(learned food aversion)と呼びます。
2022年のISFM合意ガイドラインは、入院中の猫に見慣れない味や食感を出すと食欲不振と食物嫌悪を招きうると述べています。そのため、そうした食事を入院中に導入すべきではない、としています(JFMS 2022)。
国際猫医学会も同じことを書いています。体調が悪くあまり食べていない猫に、新しい種類の食事を出さないでください。長期的にそれを食べる必要がある場合、そのせいで嫌いになってしまうことがあるため、体調が良くなってから切り替えてください、と(International Cat Care)。
怖いのは、この嫌悪が体調の回復後も残りうることです。だから、この記事の手順は「体調が良いときに始める」ことを前提にしています。急いで悪いタイミングで始めると、その食べ物を長期にわたって失うことになりかねません。
おやつを、突然ゼロにしない
「お腹が空けば、そのうち食べるだろう」という方法を取らないでください。
猫は、食べる量が減るだけでも短期間で健康に大きな影響が出る動物です。国際猫医学会は、わずか3日ほどの、いつもより食べていない期間でも、猫の健康に大きな影響が出ることがあると書いています。そして、短期間なら食事が少なくても持ちこたえられる犬とは違い、猫は速やかに治療を受ける必要がある、とも(International Cat Care)。
背景にあるのは、肝臓に脂肪がたまる状態(肝リピドーシス)です。カロリーが入らなくなると、体は蓄えた脂肪を分解して肝臓へ送ります。ところが猫の肝臓は、一度に大量の脂肪を処理することが得意ではありません。その結果、肝臓に脂肪がたまり、重い状態に至ることがあると資料は説明しています(VCA Animal Hospitals)。
とくに、体重の多い猫では危険が大きくなります。VCA Animal Hospitals は、猫、とりわけ過体重や肥満の猫における突然の食欲不振は、肝不全の危険があるため特に危険であると書いています。
減量についても同じです。国際猫医学会は、猫が急に体重を落とすことは危険であるとして、肝リピドーシスの名前を挙げています(International Cat Care「Obesity in cats」)。体重を落とす計画は、動物病院の指導のもとで進めるものだと資料は述べています。この記事では減量の指導はしません。
なお、同じ資料は減量に取り組むときの最初の一歩として「おやつを減らす」を挙げています。飼い主が「ほんの少し」と思って渡しているものが、総カロリーを押し上げているためです。減らすことと、突然ゼロにすることは、別のことです。
人間の食べ物をトッピングしない
食いつきを良くしたくて、人間用の食べ物を少し混ぜたくなります。やめてください。
国際猫医学会は、人間用のベビーフードやグレービーを使わないよう書いています。理由は、玉ねぎのように猫にとって有害な成分が含まれていることがあるためです(International Cat Care)。
猫が食べてはいけないものについては、別の記事にまとめています(猫に危険な食べ物)。
香りを強くしたいなら、この記事で挙げた方法——温める、少量を何度も出す、乾く前に下げる——のほうが安全です。
「わがまま」ではないほうの原因 — 口の痛みと、加齢
ここまで行動と手順の話をしてきました。ここからは、その前に確認しておくべき側の話です。
この章の内容は、当てはまるかどうかをご自身で判断するためのものではありません。見たままを動物病院に伝えるための材料です。
食べたいのに、食べられない状態がある
VCA Animal Hospitals は、食欲がない状態を2つに分けています。ひとつは本当に食欲がない状態。もうひとつが偽食欲不振(pseudo-anorexia)です。
偽食欲不振とは、猫は食べたがっている(お腹は空いている)のに、拾い上げる・噛む・飲み込むことが難しくて食べられない状態を指します(VCA Animal Hospitals)。
同じ資料は、その原因として口内炎、歯肉炎、食道の炎症、そして進行した歯周病(ぐらついた歯を伴うこともある)を挙げています。
ここが重要です。「硬いごはんは食べないのに、ペースト状のおやつは食べる」という状態は、好みではなく、痛みの回避かもしれません。噛む必要のないものだけを選んでいる、という説明が成り立つからです。
この可能性を先に置いておくと、飼い主の見え方が変わります。「甘やかしたせいだ」ではなく、「痛いのかもしれない」から始められます。
見逃されやすいサイン
口や歯のトラブルとして挙げられているサインを並べます(International Cat Care/VCA Animal Hospitals)。
- 口臭がする
- よだれが出る
- 顎をカチカチと鳴らすような動きをする
- 食べ物を口からこぼす
- 片側だけで噛んでいる
- 食べている最中や食べた後に、前足で口を気にする
- 毛づくろいが減り、毛並みが乱れてきた
くり返します。この一覧を見て、病名を当てにいかないでください。やることは1つで、当てはまるものを記録して、動物病院で見せることです。「よだれが出ています」で十分な情報になります。
食欲の低下に伴って見ておくとよいものも、あわせて挙げておきます。嘔吐、下痢、便秘、お腹の張り。体重の減少と、背骨や腰の骨が触れやすくなること。水を飲む量が増えること。動きが硬い、ジャンプを嫌がる。隠れて出てこない、いつもより鳴く、ぐったりして寝てばかりいる。これらは獣医師が原因を絞り込むときの手がかりになります。
高齢の猫は、嗅覚と味覚が落ちる
もうひとつの、わがままではない原因が加齢です。
国際猫医学会は、高齢期に起こる体の変化として「食べ物のにおいを嗅ぎ、味を感じる能力の低下」(reduced ability to smell and taste food)を挙げています。あわせて、脂肪とタンパク質を消化する力の低下、ストレスへの耐性の低下も挙げられています。そして、食べ物に気難しくなったり、食欲が落ちたりすることがあると続きます(International Cat Care)。
この記事の3章とつなげると、事情がはっきりします。猫は香りで食べ物を判断しているのに、その香りが届きにくくなる。結果として、香りの強いおやつだけが「食べ物として認識できるもの」になっていく。年齢を重ねた猫がおやつに寄っていく背景には、こうした説明が成り立ちます。
同じ資料が挙げている高齢猫向けの工夫は、次のとおりです。
- 1日4〜6回を出発点として、少量を何度も出す(消化の負担を減らすため)
- 室温で出す。体温の少し手前まで穏やかに温めると、おいしさが増すことがある
- 広く浅い器、または縁のある皿を使う
- 関節に不調がある猫では、器を少し高い位置に上げる(かがむ負担を減らすため)
- 静かな場所を食事場所にする
- 硬い塊より、柔らかいものを選ぶ(少量の水を足して崩す方法も挙げられています)
高齢猫のケア全般については、別の記事で扱っています(高齢猫の特別なケア)。この記事での高齢という論点は、あくまで「おやつしか食べない」の原因のひとつとしての位置づけです。
動物病院に伝えること
受診の際に、次の4つを整理して持っていってください。
- いつからそうなったか(正確でなくて構いません。「先月の半ばごろから」で十分です)
- 何をどのくらい食べているか(おやつの種類と1日の回数、主食に口をつけたかどうか)
- 体重の変化(測っていなければ、抱いたときの感覚や、骨の触れ方の変化でも構いません)
- ほかに気づいたこと(よだれ、口臭、嘔吐、隠れる、鳴き方の変化など)
前の章で勧めた記録が、そのままこの4つになります。そして、受診するかどうかの判断は、動物病院に渡してください。この記事が示せるのは、相談の目安までです。
戻ったあと、もう一度同じことにならないために
ここからは、移行が進んだ後の話です。一度戻っても、同じ経路をたどれば同じ場所に戻ります。そうならない食べ方の設計を、資料に沿って見ていきます。
迎えたばかりで、そもそもの食歴が分からない猫の場合は、保護猫が最初の1週間ごはんを食べない理由と対処もあわせてご覧ください。
2〜3種類を「回す」
コーネル大学猫健康センターは、こう書いています。2〜3種類の異なるフードを与えることは、風味の多様性をもたらし、単一のフードだけを排他的に好むようになることを防ぎうる(may prevent your cat from developing an exclusive preference for a single food)(Cornell Feline Health Center)。
そして、ここに重要な補足があります。2020年の総説は、一度受け入れられたフードも、日頃の献立に定期的に戻し続けないと、次に出したときにネオフォビアが見られることがある(Accepted foods should be regularly rotated into a feeding regimen to maintain consumption, otherwise, neophobia may be observed during future presentations)と述べています(Vet Clin North Am 2020)。
これは、多くの飼い主にとって新しい情報だと思います。「昔は食べていたのに」という状態は、猫が気まぐれになったのではなく、長く出さなかったことで「知らないもの」に戻ったという説明が成り立ちます。
同じ総説は、新しいものへの好みについても釘を刺しています。猫は出される食べ物にある程度の変化があることを好むように見え、新しいフードに最初は好みを示すことがあるが、その効果はたいてい一時的である(the effect is usually transient)、と。初日に食べたからといって、定着したとは限らないということです。
実務としては、こうなります。受け入れているものを2〜3種類つくり、どれも献立から長く外さない。週に1回でも構いません。出し続けることが、それを「知っているもの」に留めます。
ウェットとドライ、両方の食感に慣らしておく
種類だけでなく、食感の幅も同じ話です。
国際猫医学会は、健康な猫についてウェットとドライの両方を組み合わせて与えることを勧めています。理由は、両方の利点を得られること、そしてひとつのタイプの食べ物だけに慣れきってしまわないこと(don't become accustomed to only one type of food)です(International Cat Care)。
子猫と暮らしている方には、もうひとつ具体的な情報があります。離乳はおおむね生後3〜4週で始まり、8週ごろまでに終わります。この時期にドライとウェットの両方を経験させておくと、後の人生で異なる食感を受け入れやすくなる(Offering both dry and wet food can help kittens accept different textures in later life)と書かれています(International Cat Care)。
いま子猫と暮らしている方にとっては、この段落がこの記事でいちばん価値のある部分かもしれません。2章で見たとおり、好みは早い時期に決まります。そこで食感の幅を持たせておけるのは、この数週間だけです。
ボウル以外の出し方も、持っておく
おねだりの背景には、退屈があることがあります。
2020年の総説は、フードパズル(知育給餌器)へ切り替えたときに報告されたことを挙げています。ストレスの兆候の減少、体重の減少、人や他の猫への反応性の低下、不安や恐怖の軽減。そして注意を引くための行動が解消されたことです(Vet Clin North Am 2020)。おやつをねだるという行動も、この「注意を引くための行動」と地続きです。
導入には順番があります。国際猫医学会が挙げているのは次の4点です(International Cat Care「Puzzle feeders for your cat」)。
- いきなり全部を切り替えず、これまでの器も併用する
- 最初は、簡単に出てくる設定にする
- 中が見えて、においも音も分かるものを選ぶ(透明なもの、開口部の多いもの)
- 周りに少量を撒いて、「この道具に食べ物がある」と結びつけてもらう
うまくいかないときに無理をしないでください。やり方が分からないまま置かれると、猫は苛立ちます。難しさは、いちばん簡単なところから上げていきます。
魚種を固定しない設計と、食感が2種類あること
「2〜3種類を回す」「両方の食感に慣らす」という話をしたので、私たちの商品がその中でどう使えるかを書きます。効果の話ではなく、形の話です。
ニコルスは、三重県熊野灘で獲れた天然の魚を使っています。原材料は「季節のお魚」で、魚種を固定していません。その季節に獲れたものを使うため、同じ商品でも季節ごとに少しずつ表情が変わります。製造は三重県熊野市二木島です。この背景は、別の記事に書いています(なぜニコルスは熊野灘の魚を選ぶのか)。
形状は2種類あります。切り身タイプと、小魚タイプです。初回トライアルセットには、この2種類が入ります。この記事の手順に当てはめると、食感の好みを2つ、同じ時期に確かめられるということになります。1パックは65〜80gなので、合わなかったときの負担も小さく済みます。加熱加圧調理をしているため、骨までやわらかい形です。
使い方も、記事の手順どおりで構いません。おやつの器の隣にもう1つ器を置き、そこに少量を入れて並べる。それだけです。混ぜないでください。
そして、これで食べるようになるとは書きません。この記事が最初から述べているとおり、受け入れられるかどうかは猫のペース次第で、2〜8週間かかることもあります。私たちが言えるのは、「並べて出す1皿目の候補として使える形をしている」ということまでです。
「おやつをゼロにする」が、ゴールではありません
最後に、目標地点の話をします。
日本の制度上、間食は禁じられた存在ではありません。規約は「しつけのごほうびなどとして与えられるペットフード」と定義しています(ペットフード公正取引協議会)。おやつには役割があります。
2024年の飼い主調査でも、おやつを与える動機として、しつけや関係づくりが挙げられています(PLoS One 2024)。おやつは、猫との関係を作る道具でもあります。
だからゴールは、おやつを絶つことではありません。おやつを、国際的な目安として示されている枠(1日の総カロリーの10%前後)の中に戻すことです(International Cat Care/Cornell Feline Health Center)。
この目標の置き方には、実務上の利点があります。ゼロを目指すと、1回出しただけで「失敗した」ことになります。枠の中に戻すことを目指せば、回数が減っただけでも前進として数えられます。続けられる形にしておくことが、いちばん大事です。
よくある質問
おやつを取り上げれば、そのうちお腹が空いて食べますか?
その方法は取らないでください。猫は、食べる量が減るだけでも短期間で影響が出る動物です。国際猫医学会は、わずか3日ほどのいつもより食べていない期間でも、健康に大きな影響が出ることがあると書いています。さらに、短期間なら持ちこたえられる犬とは違い、猫は速やかに治療を受ける必要があるとも述べています(International Cat Care)。背景には、肝臓に脂肪がたまる状態(肝リピドーシス)があります。とくに体重の多い猫では危険が大きくなります(VCA Animal Hospitals)。おやつは残したまま、隣に器を1つ増やす形で始めてください。
ごはんとおやつを混ぜてもいいですか?
一次資料は、混ぜないことを勧めています。国際猫医学会は「両方の食事を同時に、ただし別々の器で出す」としています。理由として、猫は一般に、2つの異なる食べ物が1つの器で混ざっているのを好まないことを挙げています(International Cat Care)。別の記事にも、異なる種類の食べ物が混ぜられているのを好まない猫がいるため、新しいものを古いものの隣に別の器で出す、と書かれています(International Cat Care「Inappetence in cats」)。混ぜてうまくいかなかった経験がある方は、方法が合っていなかっただけかもしれません。
どのくらいの期間で戻りますか?
幅があります。国際猫医学会は「猫にペースを決めさせてください。5〜7日で新しい食事を受け入れる猫もいれば、もう少し時間がかかり、2〜8週間を要する猫もいます」と書いています(International Cat Care)。おやつに強く固執している猫は、後者の側にいる可能性があります。1週間で進まなくても、それは失敗ではありません。受け入れにくそうな場合は、新しいほうの量をごくゆっくりとだけ増やす、と同じ資料は述べています。
何日食べなければ、動物病院に相談すべきですか?
2つの状態を分けて書きます。食べる量がいつもより減っている状態については、国際猫医学会が3日以上続いたら緊急に動物病院へ連絡するよう書いています(International Cat Care/Inappetence in cats)。まったく食べない状態については、VCA Animal Hospitals が2日を超えたら直ちに獣医師に相談するよう書いています(VCA Animal Hospitals)。これらは相談の目安であって、それまでは安全という保証ではありません。迷ったら、これより早く相談して構いません。
おやつは、1日にどのくらいまでですか?
原典を確認できた国際的な資料は、いずれも10%前後です。世界小動物獣医師会は「間食・おやつ・食卓の食べ物が総カロリーの10%超」を、詳しい栄養評価に進むべきリスク因子として挙げています(WSAVA, JSAP 2011)。国際猫医学会は食事全体の10%を超えるべきではないとし(International Cat Care)、コーネル大学猫健康センターは10〜15%を超えないことを目安としています(Cornell Feline Health Center)。ただし、必要なカロリーはその子の体格や状態で変わります。具体的な量は、かかりつけの動物病院に相談してください。
高齢の猫でも、同じやり方でいいですか?
基本の手順は同じです。並べて出す、混ぜない、猫のペースに合わせる。そのうえで、国際猫医学会は高齢猫向けの調整を挙げています。1日4〜6回を出発点に、少量を何度も出す。室温か、体温の少し手前で出す。広く浅い器を使い、関節に不調があれば少し高くする。静かな場所で出し、柔らかいものを選ぶ、といった内容です(International Cat Care)。同じ資料は、加齢によってにおいを嗅ぎ、味を感じる能力が下がるとも書いています。気難しくなったのではなく、届きにくくなっているのかもしれません。詳しくは別の記事にまとめています(高齢猫の特別なケア)。
一度に何種類も出して、選ばせるのはどうですか?
勧められていません。国際猫医学会は、一度にいろいろな種類を出さないよう注意しています。猫が圧倒されてしまうことがあるためです(International Cat Care)。並べるのは2つまでにしてください。この記事の手順が「おやつの器」と「ごはんの器」の2つで組まれているのは、この注意に沿ったものです。なお、種類を増やすこと自体は、移行が終わって落ち着いてからなら意味があります。同時に出す数と、献立に持っている数は別の話です。
まとめ
この記事の結論
3行にまとめます。
- おやつを取り上げないでください。おやつの器を残したまま、隣にごはんの器を並べます。混ぜません。国際猫医学会は、猫は1つの器で2種類が混ざるのを好まないとして、別々の器を勧めています
- 期間は猫が決めます。5〜7日で進む猫も、2〜8週間かかる猫もいます。古いもの75%・新しいもの25%から始め、受け入れにくそうならごくゆっくりとだけ増やします
- 数字は相談の目安であって、安全の保証ではありません。食べる量が減った状態が3日以上、まったく食べない状態が2日を超えたら、動物病院に相談してください
そして、やってはいけないことは4つです。無理に食べさせない。体調が悪いときに新しいごはんを出さない。おやつを突然ゼロにしない。人間の食べ物をトッピングしない。
最後にもう一度書いておきます。やり方を変えた直後に、前より鳴くことがあります。それは消去バーストと呼ばれる、想定内の反応です。そこで元に戻すと、いちばん激しく鳴いたときに報酬が出たことになります。3日目でくじけないために、先に知っておいてください。
この記事で、私たちが書けなかったこと
2つ、正直に書いておきます。
1つめ。「うちの商品に替えれば食べるようになります」とは書けません。猫が新しいものを受け入れるかどうかは、その子の過去の食体験とペースに強く縛られています。それはこの記事が引いてきた資料が、一貫して述べていることです。ここで「食べます」と書けば、記事自身の主張と矛盾します。
2つめ。この記事では、成分値・カロリー・1日の給与量といった数値を扱っていません。おやつの割合の話をしておきながら、と思われるかもしれません。確認できた数字だけを書く、という方針を最後まで通した結果です。商品の表示については、商品ページをご覧ください。
並べて出す、その1皿目に
ニコルスは、三重県熊野灘で獲れた季節のお魚を、水を加えずに調理しています。保存料・着色料・香料・増粘剤は使っていません。初回トライアルセットには切り身と小魚の2種類が入るので、食感の好みを2つ、同じ時期に確かめられます。1パック65〜80gなので、合わなかったときの負担も小さく済みます。私たちの作り方については、こちらのページにまとめています。
使うときは、この記事の手順のとおりにしてください。いつものおやつの器はそのまま。その隣に、もう1つの器を置く。それだけです。
今日やることは、器を1つ増やすことと、記録を1行書くことです。それ以上を、今日やる必要はありません。
監修:NICO-LS開発チーム